AMAZING BUD POWELL / SCENE CHANGES VOL5 / BLUE NOTE BST 84009
1958年12月録音
レーベルBlue Note
長年虚ろな眼差しでピアノを弾く傍らに子供が居る青写真というジャケットの不気味さからか、私の中でジャズの一番恐怖であった作品なのだが、パウエル自身が子供を含めた家族を連れてフランスに移住する前のブルーノート最後のレコーディングというエピソードと、統合失調症という精神疾患と闘いながらピアノを一生懸命弾いていた事情を聴いて、写真の意味するものが分かり一番の恐怖は消えた。
「ジャズ批評」の松崎政博さんの文章だったと思うが、「クロッシング・ザ・チャンネル」の終了間際に子供の泣き声が一緒に録音されており、もともと精神疾患なのか演奏中に結構な量で唸り声を上げるパウエル(USではそれも醍醐味とされていたそうだが)と相まって、非常にユニークなアルバムになっている。
きっとジャケットに写るパウエルのご子息さんなのだろうけれど、シリアスな演奏と唸り声・泣き声の部分を別パートとして聴いてしまうため、非常に深いグルーヴと不可思議さが交錯するラストレコーディング現場だったのではなかろうかとか、こっちも妙な想像が膨らむのである。
ベースはポール・チェンバース、ドラムはアート・テイラー。
当時の現場の泣き声は何だったのか訊きたいところです。