【CEOインタビュー連載:Vol.3】「私がレコードを売るようになったキッカケ」

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【CEOインタビュー連載:Vol.3】「私がレコードを売るようになったキッカケ」

【CEOインタビュー連載:Vol.3】「私がレコードを売るようになったキッカケ」

更新日:2023年3月27日

 

現在、エコストアレコードを運営するFTF株式会社はその他にも、渋谷にはFace Records ShibuyaとFace Records Miyashitaの2店舗、下北沢にGeneral Record Store、そしてアメリカ・ニューヨークにもFace Records NYCを展開しています。各店でお客様へレコードを届ける以外にも、インターネットを通じてありとあらゆる国々へと販売。なかでも2018年には世界最大級のオンラインオークションサイト eBay(イーベイ)において、世界中へ販売した売り上げが最も大きい出品者へ贈られるグローバル・セラー・アワードを受賞するまでに。代表取締役社長である武井進一が94年にメールオーダーでの中古レコード店を設立して以来、数々の困難を克服しながら、会社は時代とともに確実に成長してきました。

長い年月を経てなお、盤面に刻まれた音楽と想いを届け続ける武井は、何がきっかけでレコード売買を仕事にしようと思ったのか。そして、何がそこまで夢中にさせるのか。インタビューを通してその理由を聞きました。

 
 

聞き手・文:福田俊一(Ecostore Records)

 
 
 

― 94年に興した中古レコード店はいま従業員120人を超える企業になりました。当初、どのようなきっかけでレコードを売ろうと思ったのですか?

 

単純にレコードを売ることが好きだったんです。DJをやるようになって、たくさんレコードを買い集めるようになって。最初は友達とか後輩に売っていたのですが、(今のようにインターネットもないので)昔はレコードはとにかく足で探すしかありませんでした。だから「これ、売るよ」なんていうと彼らにはとても喜ばれたんです。それがきっかけかもしれません。

その後、23歳の時にレコード店でバイトをしたこともありました。その頃はレコードコレクター向けに「ゴールドマイン(Goldmine)」という米国の雑誌があって、虫眼鏡で読めるほどの1mmくらいの文字で通販リストが載っていて。そこに手紙を出したりファックスを送って中古レコードを購入していました。それを向こう(米国)から仕入れて、もう要らなくなったものや余ったものを知り合いに売っていました。

94年にその店を辞めて、同じ年の6月に自分の店を立ち上げました。まずは自分自身が所有するレコードを入力して販売し始めたんです。当時 顧客へ送っていたメールオーダー用の紙の通販リストがまだ残っていますよ。昔、私はラテン音楽がとても好きで。リストに載っている商品を見てみると50〜60年代のラテンのレコードですね。ほら、このレコードとか高いんですよ。弊社のニューヨーク店がある通りの名前がボリンケン・プレイス(Borinquen Place)というのですが、ボリンケンとはスペイン語でプエルトリコのことらしいんです。それと店舗の大家さんもラテン音楽が好きなヒスパニック系の人らしく、そういう話を知ると私も胸にグッときますよね。そういったラテン音楽のレコードは彼らの文化がルーツなのですから。

 
 
 

― リストには商品それぞれにコメントが書いてありますね

 

全部の商品に書いてあります。書くのは時間もかかるので大変なのですが、その重要さもよく理解しています。私が自分の店を持つ前に働いていたレコード店にいたとき、とあるお客様から言われたんです。通販リストはファックスを送ってやり取りするのですが、『こんな良いレコードがあるなら一行でもコメントがあったら嬉しい。なんで書かないの?』と。「これだ!」と思いましたよ。載せた情報は元々アーティスト/タイトルだけだったので、「A面の1曲目が最高」とか書いてあったら嬉しいじゃないですか。そうして結局すべてにコメントを書くようにしたんです。私が書く前は、商品にコメントを書く中古レコード店なんて他にはなかった。レコードを買うのは詳しい人だけではありません。まだ知らない音楽、自分にとって新しい音楽を聴きたいという人ももちろん多いんです。だからこそ、コメントの重要さは私はとても分かっています。

 
 

 
 

― 1回の新入荷で何名くらいのお客様へリストを送付していましたか?

 

だいたい500通くらい、多いと700〜800通くらいのリストを送っていましたね。印刷機も購入してすべて手でやっていました。例えば、96年に作ったこのリストに載っているラテンのレコードは高額なレア盤ばかりだったし、当時 カラー写真のリストなんて他にはなかった。イラストレーターでデザインしてカラー印刷するのに一晩かかっていました。最先端の機器を持つ知人のもとで印刷させてもらって、「今日は印刷が終わらないのでまた明日来てください」なんて言われて、次の日に取りに行ったりしてね。インクジェットプリンターで一日中 印刷してましたね。大変でしたよ。レコードのジャケット(アートワーク)は年代によっても変わりますが、そういうことにも興味があって、デザインが可愛いのでカラー写真で載せていました。ましてやこんなラテンのレコードなんて本当に見かけませんから。

いまでこそ当たり前になっているインターネット販売への移行も、この通販の経験があったから苦ではありませんでした。通販のノウハウもありますし、紙からウェブに変わっただけだから。

 
 

 
 

― いま会社の代表という立場でも、レコードを売る嬉しさや楽しさはまだ感じますか?

 

もちろん、あります。やっぱり好きなんでしょうね。アメリカに買い付けに行っていた頃、現地の人はレコードをバンバン捨てていました。知り合いから聞いた話なのですが、彼がニューオリンズに買い付けに行って街中をぶらぶら歩いていたら、アフリカ系アメリカ人が経営する店の前にレコードがまとめて置いてあったそうです。そこには「free(ご自由にお持ちください)」と書いてあったらしくて。それでどんなレコードなのか見てみたら、そのほとんどがなんとブルーノートのオリジナルだったんだとか。当然、その人はすべて持ち帰ってきて、見せてくれた中にはリー・モーガンの『キャンディー』もありました。※

結局、興味ない人たちにとってはレコードなんてゴミ同然に扱われてしまうんです。私もアメリカのフリーマーケットに足を運んでレコードを仕入れて、日本で売ったこともあります。以前、ロサンゼルスのレコード店で試聴したものはよく見かける安価なものだったのですが内容が良くて。50枚ぐらいまとめて購入して、それを私の店に来たお客様へ聞かせたらたくさん売れて。ゴミとして捨てられるものが他の人にリユースして使ってもらえるというのはレコード屋の醍醐味ですよね。不要となったものでも欲しい人の手に渡ってまた使われるのだから。いま海外で人気があるテレサ・テンのレコードなんかもそう。かつては捨てられてしまうこともあったのですから。

レコードに興味がないような一般の人にとってはそれがいくらで売れるかなんて分からない。だから、どうしても面倒くさくなって廃棄処分してしまう。(中古レコード屋としては)そういうことを無くしたいですね。

 
 
 


※Lee Morgan / Candy(Blue Note, BLP 1590)

1958年発表作品。オリジナル発売以降、69年にジャケ違いステレオ盤再発がリリースされるまで長きにわたり廃盤になっていたトランペット奏者、リー・モーガンの人気作品。現在、中古相場では約30万円ほどする高価で貴重なLPレコード。

 
 
 
 

 
 

 

 

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