Bill Evans諸作品でも有名な米ジャズレーベル、Riverside(リヴァーサイド)。オリジナルのレコードとなると、その貴重さから買取ではとても高額になるものがあります。
RiversideはBlue Note、Prestigeと並んでジャズ3大レーベルに数えられ、非常に高い評価を与えられています。
稀少でしかも人気のオリジナル盤であれば、レコードのどのような点に着目して鑑定すべきか知りたい方も多いはず。
今回はRiversideのレコードを集めてみたい、もっと知ってみたいという方のために、オリジナル鑑定のポイントをご紹介してみましょう。
文:福田俊一(Ecostore Records)
Riversideって、どんなレーベル?
1953年 米国ニューヨークにおいて、出版会社で編集員として働いていたOrrin KeepnewsがBill Grauerと共にRiversideを設立。
設立当初はスイング・ジャズなど初期のジャズの再発を主に行うレーベルでしたが、54年にはピアニスト Randy Westonの演奏を録音したのを皮切りにモダン・ジャズの作品を手掛け始めます。
55年にはPrestigeとの契約が終了したThelonious Monkを所属アーティストとして獲得、その後もCannonball Adderley、Bill Evans、Wes Montgomeryらの作品を発表してゆきました。
中でもEvansのリヴァーサイド4部作と呼ばれる『Portrait In Jazz』『Explorations』『Waltz For Debby』『Sunday At The Village Vanguard』はジャズファンの間で今も高い人気を誇ります。
Riversideは1964年にその幕を閉じるまで、数多くの傑作を世に送り出してゆきました。
Riversideに作品を残した主なアーティスト
■Bill Evans
■Thelonious Monk
■Cannonball Adderley
■Wes Montgomery
■Chet Baker
■Sonny Rollins
■Johnny Griffin
■Kenny Drew
■Blue Mitchell
■Wynton Kelly
など
鑑定ポイント、ラベル変遷をまとめました
あなたが持っているRiverside作品はいつの時代のものか分かりますか?
レコードのラベルは重要なポイントです。そのデザインを知っておくことでいつの時代のプレスか特定できます。
そのため、オリジナルかどうか鑑定する際には必ずラベルの情報が必要となるのです。
ここでRiversideのラベルの数々を見てみましょう。
1.白ラベル (1953年頃~)
Riversideの初期10インチ作品及びLP作品において、最も古いラベルは白を基調とするラベルに黒文字・水色のデザインが配されたものでした。
ラベルの上部にはマイクとリールのイラストが、下部には「Bill Grauer Productions」という文字があります。
Bill Evans / New Jazz Conceptions (型番:RLP 12-223)
1956年に録音された当時27歳のBill Evansの記念すべきデビューアルバム。大名曲「Waltz For Debby」はこの作品に収録されたのが最初でした。
発売当時はヒットせず、800枚程の売り上げに留まったという説もあるほど。元々プレス枚数が少ないために今ではオリジナル盤も滅多に見かけないうえ、見かけても状態が悪かったりします。
この作品のオリジナルは白ラベルで深溝があり、盤のフチが平らなフラット盤です。
オリジナルのジャケットはこの白黒写真のもの。セカンドプレスはイラストに変わります
2.INCなし 青大ラベル(1957年頃~)
1957年頃からラベルは青をベースに銀色の文字が施されたデザインに変わります。俗に青大ラベルと呼ばれています。
ラベル下部には【BILL GRAUER PRODUCTIONS NEW YORK CITY】とあります。
また、アルバムタイトルの文字がやや細めのフォントなのも特徴です。
青大ラベル INCなし
プロモスタンプあり:青大ラベル INCなし
3.青小 / 黒小ラベル (1958年頃~)
1958頃からラベルは青小/黒小ラベルと呼ばれるものに変更されます。
名前に小と付く理由は、先ほどの青大ラベルに比べてラベル自体が僅かに小さいからです。深溝(Deep Groove)に対してもラベルは小さく見えます。
ちなみにRiversideでは青ラベルがモノラル盤で、黒ラベルがステレオ盤です。
モノラル:青小ラベル
ステレオ:黒小ラベル
Blue Mitchell / Blue Soul (型番:RLP 12-309)
1959年発表。Horace Silverのクインテットでも活躍したトランぺッター Blue Mitchellにとって3枚目となるリーダーアルバム。Jimmy Heath(ts), Curtis Fuller(tb), Wynton Kelly(p), Sam Jones(b), Philly Joe Jones(ds)というRiversideではお馴染みともいえるメンツと吹き込んだ、アンサンブルも個々のソロもファンを大いに魅了する濃い内容です。
この作品は青小ラベル(モノラル)もしくは黒小ラベル(ステレオ)で深溝があるものがオリジナルです。
4.INCあり 青大/黒大ラベル / RLP規格 (1960年頃~)
1960年頃からRiversideのラベルは青大/黒大ラベルと呼ばれるものに変わります。
ラベル下部には【BILL GRAUER PRODUCTIONS INC. NEW YORK CITY】とあります。
この時代はRLP規格です。
モノラル:青大ラベル
/ RLP規格
ステレオ:黒大ラベル
/ RLP規格
プロモ白ラベル
/ RLP規格
Wes Montgomery / Full House (型番:RLP 434)
1962年作品。オクターブ奏法も有名な、ジャズギタリストの中でも唯一無二の存在感を放つWes Montgomeryのカリフォルニア・ツボでのライブアルバム。Wynton Kelly(p), Paul Chambers(b), Jimmy Cobb(ds)というあのMiles Davisのリズムセクションを率いてJohnny Griffin(ts)までも迎えた音の厚みも豪華な、昔も今も非常に高い人気を集める一枚です。
この作品は青大ラベル(モノラル)もしくは黒大ラベル(ステレオ)でオリジナルで、深溝がなくてもオリジナルとされます。しかし、深溝があるものは比較的珍しいため、買取では大きな付加価値となり得るでしょう。
5.青大 / 黒大ラベル / RM, RS規格 (1962年頃~)
これまでRLP規格が使用されていましたが、この時代は規格がRM(モノラル) / RS(ステレオ)になりました。
モノラル:青大ラベル / RM規格
ステレオ:黒大ラベル / RS規格
Cannonball Adderley / Cannonball’s Bossa Nova (型番:RM 455)
1963年発表。Miles Davisの大傑作 Kind Of Blueに参加したり、Blue Noteにも名盤『Somethin’ Else』を残したアルトサックス奏者 Cannonball Adderly。そんな彼がボサノバをテーマに吹き込んだのがこの作品で、若き日のSergio Mendes(p)率いるBossa Rio Sextetと共演した一枚です。Cannonballの器用さが前面に出たご機嫌な作品です。
この作品はRM規格で青大ラベル(モノラル)、もしくはRS規格で黒大ラベル(ステレオ)のものがオリジナルです。
6.ターコイズラベル(1964年頃~)
幾多の名作を生み出してきたRiversideですが、1963年に共同オーナーのBill Grauerがこの世を去ったことで翌年7月には会社が倒産、同レーベルの経営権はOrpheum Productions(オルフェウム・プロダクションズ)の手に渡ります。
それに伴いラベルデザインは見慣れたものから一転、ターコイズブルーに銀文字というシンプルなものに変わりました。
下部の文字が【ORPHEUM PRODUCTIONS INC NEW YORK CITY】に変わっています。
ラベルの色は両方とも一緒ですが、RM規格がモノラルでRS規格がステレオとなります。
モノラル:ターコイズラベル / RM規格
ステレオ:ターコイズラベル / RS規格
Art Blakey & The Jazz Messengers / Kyoto (型番:RM 493)
1966年発表作品。Freddie Hubbard(tp), Wayne Shorter(ts), Curtis Fuller(tb)をフロントに据えた3管編成のArt Blakey(ds)率いるJazz MessengersのRiverside最後となるアルバム。タイトル曲はHubbard作曲でテーマはもちろん京都、B面1曲目は渡辺貞夫作「日本橋」で同作品では曲名が「Nihon Bash」となっています。親日家だったBlakeyらしい日本色が強い作品です。
この作品はターコイズラベルがオリジナルとなります。
2種類ある青大ラベル、見分けるカギとは?
ラベルの移り変わりをご紹介する中で、青大ラベルというものが2回登場しました。
実はこの2つは似て非なるもの、つまり全くの別時代のもので区別すべきものです。
そうなると何処のポイントで見分ければ良いのでしょうか。
それはラベル下部の【BILL GRAUER PRODUCTIONS】という箇所がカギになります。
2つの青大ラベルの違い
■初期の青大ラベルの【BILL GRAUER PRODUCTIONS】のうしろには何も書いていない
■後期青大ラベルの【BILL GRAUER PRODUCTIONS】のうしろにはINC. という文字がある
このINC. が無いかあるかが、初期青大ラベル、後期青大ラベルのどちらかかを見分けるキーポイントとなります。
青大ラベル / INCなし / 1957年~
青大ラベル / INCあり / 1960年~
Riversideのオリジナルを鑑定するにはラベルを知ることが大切
Riversideはジャズ3大レーベルと言われるだけあり名盤が多くあります。
名盤が多いということは、長い歴史の中で再発も沢山されているわけです。
オリジナルは大変貴重なものですが、再発盤と比較して見た目に違う点はラベルのデザインや規格などが挙げられます。
つまり、ラベルの変遷を理解したうえであなたがお持ちのRiversideのレコードのオリジナルがどのラベルかを知ることができれば、オリジナルを判別する際に大きな助けになるでしょう。
あなたが集めたレコードの価値を最大限に知るには、経験も必要ですが知識そのものも必要となるのです。
Riversideのオリジナルを知るためには、ラベルを知るのが近道だといえます。
ラベルを知って、ジャズをもっと知ろう
今回はRiversideのオリジナルを鑑定する際に必要なラベルの知識について解説しました。
例えば、1950年代終わりにプレスされた作品は60年以上も前のものです。長い月日の中で何回も再発されている作品もあるでしょうし、一回も再発されていないものも中にはあります。
あなたがお持ちのレコードがいかに貴重なものかを知るには、まずラベルを知って時代を理解することがその第一歩となります。
ラベルの歴史を覚えることができれば、初めて見るレコード作品であってもオリジナルかどうかを判断することすらできるようになります。
あなたもそんな勘を養って、一つ上のレコード愛好家になってみませんか?
筆者: 福田俊一(ふくだ・しゅんいち)
FTF株式会社 制作部/販売部兼務。買取部門のコラムやnoteのほか、販売部門の特集コラムを執筆。大学卒業後にレコード収集に興味を持ち、約15年かけてジャズレーベル、ブルーノートの(ほぼ)すべてのLPをオリジナルで揃えた。
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