すべての中古品の買取でよく話題に上がるのが「思ったよりも安かった」という感想。長年にわたり愛し、大切にしたものだからこそ、どうしても思い入れは強くなります。なにもブランド品のバッグや宝石でなくとも、レコードだってそれは同じです。楽しい幸せな時にたくさん聴いたレコードもあれば、辛い時に聴いて励まされたというレコードもあるでしょう。しかし、そんなまるで親友のようなレコードが買取査定で「値段がつかない」なんてもし言われたら、あなたならどう感じるでしょうか?
買取で安く査定された、もしくは値段がつかない中古レコードには実はちゃんとした理由があります。そんな時のお客様へのアドバイスとともに弊社代表取締役社長 武井進一が解説しました。
聞き手・文:福田俊一(Ecostore Records)
― 中古レコードの買い取りでは残念ながらお値段が付けられないことがあります。それはどういった理由からでしょうか?
レコードにはトレンドと時代遅れ、そして需要と供給のバランスがあります。山下達郎のレコードはこれまで安価で取引されることが多かったのですが、現在では弊社ニューヨーク店では100ドル(10,000円以上)で売れるほど人気が高まっています。かつて時代遅れだったシティポップが流行の最先端になったのは、長年 中古レコード店を営んでいる人間からすれば驚きです。でも、こういう事はそう頻繁に起こることではありません。
弊社は「GOOD REVIVAL COMPANY」というミッションをMVV(企業理念)のひとつとして掲げています。いいものを時代に埋もれさせず、スポットライトを当ててリバイバルさせることが私たちの使命なんです。したがって、どんなに市場価値が低いもの(販売しにくいもの)であってもなるべく廃棄はしないという理念のもとに運営しています。その音楽、そのレコードが好きな人にバトンタッチして繋いでゆくことが役目だと。現在 安い価格帯のレコードが高くなる可能性というのは私たちプロであっても分からない。シティポップがここまで人気が高まり、レコードの値段も上がってゆくなんて想像できませんでした。
まず、商売というのは需要と供給のバランスが重要で「欲しい」という人がいないと成り立ちません。例えば、昔の歌謡曲は数十年前こそ流行したものの、今の時代では欲しいという人が減ってしまいました。一方、物の値段というのは欲しい人が増えてくると上昇してゆきます。ただ、当社では人気が低いレコードだからといって安く買取を続けているわけではありません。国内市場では安価で取引されていても、販路(ニーズ)を国外へと目を向けることで、日本よりも海外で高額なものも多々あります。したがって、弊社では他社さまよりも高い金額で買取できるものがたくさんあります。
アメリカの新聞の記事で読みましたが、多くの人が10代の多感な時期に聴いた音楽を一生聴き続ける傾向があるそうです。そのような10代の青春時代を全て傾けた大好きなアーティストのレコードが安かったら誰でもがっかりするし、思い入れの度合いによっては怒られるのも当然かと。自分が青春をともに過ごしたアーティストのレコードに「値段がつかない」とか、「まとめて何十円」なんて言われたら自分を否定されたような気がするのも普通のことでしょう。私自身も以前、同様のことを他店で言われたこともあり、当時は非常にがっかりし怒りも覚えました。また、キズがあるだけで価値が半減したり、キズが多くて再生できず商品にならないレコードもたくさん見てきました。好きなレコードほど聞く回数も増え、針を落とした回数に比例してキズが増えてしまうのは仕方ありません。
しかし、この業界に入ってから、中古品の世界は特に需要と供給により価格が形成されることを実感し、中古品の売買における「利益相反」の現実に苛まれてきました。お客様は中古にも関わらず常にきれいな商品を求め、キズがあると価値が半減し、安価でないと売れませんから。しかし、こればかりはいかんともし難い問題であります。
ただし弊社しては皆様に少しでもご納得頂くため、日々情報収集を行い、需要が高まっているレコードに関しては1円でも高く買い取れるように努力し、確実に欲しい方に適価で届けられるような仕組みを作りたいと思っております。
― この10年、15年くらいで値段が上がったレコードはシティポップ以外にありますか?
日本のアンビエント(環境音楽)もそうですね。あとはロックのニューウェーブも以前は今ほど高い相場ではなかった。日本盤レコードのニューウェーブとかパンクもそうです。逆に、世界的な相場をみていると、エルヴィス・プレスリーのレコードは相場が下がってきているように感じます。彼がデビューしたときに20歳だった方たちは今では80歳以上、かなり高齢な世代になってきているわけです。そういった方たちがエルヴィスのレコードを今もまだ買って聴くかといわれたらやはり減っているのではないでしょうか。そのため、エルヴィスのレコードの相場は昔よりは下がったと一般的には考えられています。いつの時代も不変の人気を誇るビートルズはまた別格なのですが。1930~40年代に流行ったスウィング・ジャズも今となっては人気低迷の傾向にあります。時代とともにトレンドは変わりますから、いつ何のレコードが高騰するかは予測困難です。いま中古レコード市場で高額盤として取引される作品も、発売当時はアーティストご本人たちもこれほど高価になるなんて思ってもいなかったでしょう。『きまぐれオレンジ☆ロード』という80年代のテレビアニメのサウンドトラックLPがあるのですが、いま弊社ニューヨーク店では100ドルで売れています。収録曲の一つが海外のファンのあいだで評価が高いそうです。これまでこのレコードも中古市場では価値が上がらず、過去には相当数が廃棄されたと聞きました。
鷺 巣詩郎 作曲・編曲 / きまぐれオレンジ☆ロード(Futureland, LB28-5049)
1986年発表作品。近年の人気と需要の高まりによって2021年には再発盤レコードが発売された
― 海外での日本のフュージョン人気も凄まじく、高中正義のレコードには100ドルを超えるものもあります
ひと昔前には、高中正義のレコードも中古市場には在庫が沢山ありましたからね。日本のフュージョンやアンビエント、シティポップに対する海外からの熱い注目は想定外でした。あと、国内市場でいえば松田聖子のマスターサウンド(MASTERSOUND)高音質盤シリーズ作品も値段が上がってきたのも同様です。
― 松田聖子のレコード相場が上がってきた要因は何でしょう?
彼女の声は独特で、あそこまで歌が上手い歌手もなかなかいません。それが最近のリバイバルブームによって松田聖子、中森明菜が再び人気が高まってきたのでしょう。
― 80年代のアイドルのレコードは当時大量に製造されたため、これまで廃棄されてしまったものも沢山あるのでしょうね。
そうですね。ここ数年で値上がりした日本のアンビエントのレコードも以前は大量に廃棄されてしまったと思います。
2012年、国内で買取したオアシス(OASIS)、ニルヴァーナ(Nirvana)のレコードを試しに弊社は海外オークションに出品したことがありました。「もしかしたら売れるかもしれない」と期待した程度だったのですが、非常に高額で商品が落札されてゆきました。実はそれにも理由があったんです。その2つのバンドが活躍した1990年代初め、そういったレコードが新譜として売られていた店は世界的に見てもあまりなく、すっかりCD屋さんの時代になっていたわけです。しかし、当時 国内・渋谷では新譜のLPを販売しているレコード店が非常に多く、日本が一番大量に仕入れていました。特にオルタナティヴ・ロックやヒップホップのレコードです。インターネットもまだ発達してないので、ネット通販で気軽に購入できることもなく、店頭で買って手に入れることしか方法はありませんでした。つまり、現在 相場が上昇しているそのような音楽ジャンルのレコードは国内市場でまだたくさん眠っているはずだと推測します。
― もし、査定額にご納得いただけなければどうすればよいでしょうか?
70~80年代は日本がお金持ちの時代、音楽作品をみてみると参加ミュージシャンがすごいんです。例えば、五輪真弓のセカンドアルバム『風のない世界』にはあのキャロル・キング(Carol King)がピアノ演奏で参加しています。また、ラッツ&スターの『ソウル・ヴァケイション』というLPアルバムではアートワークをアンディ・ウォーホル(Andy Warhol)が担当しました。
ラッツ & スター / ソウル・ヴァケイション(Epic, 28・3H-100)
(買取したものの)上澄みの良いところだけ売ってあとは廃棄、なんていうビジネスは長く続くわけがありません。弊社としては価格帯が比較的低い商品のそういった付加価値をしっかり示して少しでも高く売ってゆきたい。時代に埋もれた良い音楽作品には弊社がスポットライトを当ててリバイバルさせる。そうすれば買取でも必然的に高い金額で買取することができるようになるのだから。そこに力を入れてゆきたいですね。現在では評価の少ないレコードもいつか再評価され値上がりする可能性もゼロではありません。そのため、現在の価格にご満足いただけない場合は無理に売らずに取っておくのも一つの手段だと思います。弊社としては(新たな販路を見出したり、付加価値を示したりして)そういうレコードが高く買取できるよう今後も努力してゆきます。
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