あなたはレコードを手で触って、または手に取るその前に視覚的に、そのレコードのプレス国(何処の国のレコードかということ)が分かりますか?収集している方ならご存知かと思いますが、過去数十年前もそして現在も、レコードというのは世界中ありとあらゆる国々で製造されていています。
そんなレコードを、手で触ったりまたは目で見たりして、何処の国のプレスか感覚的に分かる人間がいます。
当店のような中古レコード買取専門店に勤務していますと、職場にレコードがごく普通にあるわけですし、1日で数百枚ものレコードに触れる機会がごく自然にあるものです。その数百枚ものレコードの中にはUS盤もありますし、UK盤も日本盤もあります。その他にも、ドイツ盤・イタリア盤・デンマーク盤など、レコードのプレス国はそれこそ国の数だけあるといえるでしょう。はたして、レコードを触って見分ける方法とはどんなものなのでしょうか?
レコードが大好きだというあなたのために、レコードに興味があって勉強してみたいというあなたのためにも、エコストアレコードがそのコツとなるキーポイントをここで解説してみたいと思います。
文:福田俊一(Ecostore Records)
1. レコードの国を見分ける際に最も必要なものって、なに?
レコードを手に取って、何処の国の、いつの時代のレコードか見分けるのに一番必要なものは何だと思いますか?それでは、数万枚のレコードが必要なのでしょうか?ある意味それも正解で、最も求められるものはずばり経験と、その経験に基づく勘です。沢山の音楽やレコードを勉強して頭に色々な知識が備わってくると、ご自身の中でレコードの独自のデータベースが蓄積されてきます。データベースが豊富にある状態でレコードをパッと見た時、感覚的に一瞬で様々な可能性を感じ取ったり逆に即座に排除したりします。
例えば、ある一枚のレコードがあなたの目の前にあったとしましょう。そのレコードについて何という歌手か、どんなジャンルの音楽か、全く何の知識も持たないまま手に取っただけであれば、頭の中には何も思い浮かばないはずです。
それでは逆に、知識を持っていたらどうでしょうか。同じように一枚のレコードが目に入った時、あなたの頭の中に色々な可能性が沸きあがります。「○○(歌手名)のあの□□というレコードは再発されていないことでも有名なアルバムだ!」と分かれば、即座にそれがオリジナル(初版)だと判断することができるでしょう。また、「○○のあのレコードのオリジナルはジャケットの□□と書いてある文字の所が黄色なのだけれど、あれは青色だから再発盤かな・・・」などといった推測ができるはずです。
2. ここに注目!触覚・視覚で分かる世界のレコードの特徴
LPレコードは30cm四方で形は同じです。
しかし、プレス国が違えば触った感覚はそれぞれ多少異なります。つまり、ジャケットの紙質というか、造りというか、手触りが違うように感じられるのです。人の手を触ったときに、男性か女性か、または若い人なのかお年寄りなのか、何となく分かりますね。それに似た感覚です。レコードのプレス国を触って判断する際の、おおまかな目安となり得る要素は以下のようなものです。※国ごとのレコードの触った感覚の違いはあくまで筆者個人的なものです
■アメリカ
50年代、60年代、70年代頃までのUS盤のジャケットの表面は触ると少しだけざらつくような印象を受けます。特に70年代頃までは厚紙のジャケットも多く、手で持つと厚みを感じます。この時代の厚紙のジャケットの内側は紙の色が茶色く見えます。
80年代以降のジャケットは厚紙ではなくなり、薄い紙のものが多く使われるようになります。ジャケットの内側を見ると白いのが分かります。
■日本
60年代まで、ペラジャケットと呼ばれる手前に折り返しがあるジャケットがあります。
70年代、80年代、90年代の日本盤(国内盤)のジャケットの素材はやや硬質で、触れると表面がつるつるとしているように感じられます。無論、日本語のタイトルが載った帯が付いていれば日本盤だと一見して分かります。※ただし、帯や日本語の解説書が付いていても、ジャケットも盤も実際には海外のプレスである【直輸入盤】というものがあります。また、本来 日本盤独自のものである帯を真似し、飾りとしての帯を付けた海外盤も一部あります。
■ヨーロッパ(イギリス、フランス、ドイツなど)
60年代以前のフリップバックカバーと呼ばれる手前に折り返しがあるジャケットは、ヨーロッパが発祥でUK盤などに多く見られます。日本盤のペラジャケットはこれを元としています。
70年代、80年代のイギリス盤、フランス盤、ドイツ盤のジャケットの紙は薄い造りで、コーティング(ラミネート加工)がされていることが多々あります。
コーティングがない時代のものでも、ジャケットの表面がツヤツヤしているように見えます。ヨーロッパ系のジャケットは角が90° 直角にピシッと折られている造りのイメージです。そのため、レコードを手で持つとジャケットの角や端がやや指に引っかかるような気がします。
■イタリア
同じヨーロッパということもあり、イタリア盤のジャケットも紙が比較的やや薄めなものが多いように感じられます。時代によって、ラベルの片面のみにSIAEというゴム判子が押されているあるものがあります。
※SIAEとは、音楽の著作権に関するイタリアの協会だとのことです。
■カナダ
カナダ盤は手で持つとUS盤によく似ています。US盤の中には、ジャケットのみカナダの工場で製造されたものが沢山あり、そのようなジャケットの裏面には「Jacket printed in Canada」という印刷が見受けられます。カナダとアメリカは隣国であるため、コスト面などの理由からアメリカのレコード会社がUS盤として使用するジャケットをカナダの工場で製造させたのだと考えられています。そのこともあり、カナダ盤はUS盤と思わず間違えてしまいそうになるほど類似しているのだと言えるでしょう。
■中南米
ジャマイカ、メキシコ、ブラジルなどの中南米のレコードのジャケットには薄い造りのものがあります。ラベルも盤自体もプレスが粗いような印象を受けます。
3. 触ってダメなら、裏を見よ!
レコードを手で触った時に感じる特徴をいくつかあげましたが、それでも不十分なことも当然あります。そのようなときに自然にすることは「ジャケット裏面の下の方を見る」という行動です。レコードの型番は大概ジャケットの背表紙の上部に印刷されていますが、製造国は裏面の下部に記載されていることが多いです。
上の写真のように、Printed in West Germanyと書かれていれば西ドイツ盤だということが分かりますね。
こちらは裏面のバーコードの下にPrinted in U.K.とあります。
MADE IN BRAZILと書かれていれば、言うまでもなくブラジル盤です。
US盤はジャケット裏面下部だけでなく、背表紙の下部にもPRINTED IN U.S.A.と書いてあるものも沢山あります。また、たまに特定の国名の表記がないものがありますが、「~, London」や「~, Barcelona」というようにレコード会社の住所の記載だけがある場合は、それぞれイギリス盤とスペイン盤なのだなといった認識ができます。
イギリス盤では、ジャケットのどこにも国の表記がなく、紙製のインナースリーヴ(レコード盤を入れる内袋)にMade In Englandという文字をやっと見つけられるものもあります。
その1枚のレコードも、外国で生まれて、あなたのもとで歴史を刻んでいる貴重なものです
レコードにとってプレス国は、まさに生まれ故郷です。普段の私たちの生活の中でさえも、地域によって異なる特色のようなものはいくつもありますね。それは言語・方言だったり、生活スタイルや食文化であったり様々でしょう。地域によって特徴が違うのは、実はレコードも同様なのです。レコードのことをもっともっと知れば、その奥深さにきっとあなたも気付くはず。数十年前に海外のとある国で製造されて、いつの日かはるばる海を渡ってきたからこそ、今あなたの手元にそのレコードはあるのです。音楽に敬意を表しつつ、レコードに感謝して、今日はゆっくりとお気に入りの一枚をかけて楽しんでみてはいかがでしょうか?
筆者: 福田俊一(ふくだ・しゅんいち)
FTF株式会社 制作部/販売部兼務。買取部門のコラムやnoteのほか、販売部門の特集コラムを執筆。大学卒業後にレコード収集に興味を持ち、約15年かけてジャズレーベル、ブルーノートの(ほぼ)すべてのLPをオリジナルで揃えた。
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