筆者は中古レコード買取専門店エコストアレコードに在籍していますが、自分で所有するコレクションにおいてジャズの名門レーベル、ブルーノート(Blue Note)をほぼ集めきりました。ブルーノートは1939年にドイツ人、アルフレッド・ライオンの手によって米国ニューヨークで設立。以来、傑作と評される数々のアルバムを生み出してきました。そんな筆者も、ある日その奥深さと”凄み”に興味を持ちオリジナル盤(最も時代の古い貴重なレコード)の収集を開始。何作品聴いても、何回聴いても飽きることがないその素晴らしさから、私自身もあっという間に虜になりました。
当時20代前半だった私はヒップホップとR&Bを熱心に聴いていましたが、「ジャズを勉強したい」という小さな”熱い”興味が沸いてから、所有するレコード・コレクションは約15年かけてBNの主要な作品をほぼ集めきるほどまでに。
ほぼ、というのは私が集めたのは全てではなく、
・10インチ作品(1955年まで)を20~30タイトル
・1500番台(1955年頃~)と呼ばれる約100タイトル全部
・4000番台(1957年~)約400タイトル全部
・LAシリーズと呼ばれる70年代初頭の作品を50タイトルくらい
ではありますが、入手したものは全てオリジナル盤です。
途方もない労力と資金が掛かったのは言うまでもありません。中古レコード店に通って、時に国内のネットオークションで、時に海外のネットオークションで。血眼になって探すというのはこういうことか、と気付くこともないくらい夢中で探しました。たちまち私の部屋はブルーノートのレコードでいっぱいに。今思えば、寝ても覚めてもBNのことを考えていた15年間だったでしょう。もはや恋愛です。
そんなブルーノートが世に送り出した名作を「買取専門店勤務の筆者が選ぶトップ10」と題し、ジャズの奥深い世界をあなたにもご紹介します。
文:福田俊一(Ecostore Records)
【10】ドナルド・バード / ステッピン・イントゥ・トゥモロー Donald Byrd Stepping Into Tomorrow / BN-LA368-G
1975年発表。
58年録音の『オフ・トゥ・ザ・レイシズ』(BLP 4007)への吹き込み以降、長年にわたりBNから作品を発表し続けたベテラン、ドナルド・バードによる快作。ラリー・ミゼルがプロデュースを担当。2000年代にエリカ・バドゥやJ・ディラにもカバーされた「シンク・トゥワイス」がハイライトともいえる、ジャズファンのみならずクラブ・ミュージックにも好かれている一枚です。
ドナルド・バード(tp), ゲイリー・バーツ(as), デイヴィッド・T・ウォーカー(g), チャック・レイニー(b), ハーヴィー・メイソン(ds) ほか参加。
【9】ホレス・シルバー / ソング・フォー・マイ・ファーザー Horace Silver Song For My Father / BLP 4185
1964年録音。
ポルトガル生まれでカーボベルデ共和国という西アフリカで育った父への想いが詰まったホレス・シルバーの名盤。彼は52年に10インチアルバムでデビューして以降、ルー・ドナルドソンと並んで同レーベルで長く活躍したアーティストでした。タイトル曲「ソング・フォー・マイ・ファーザー」では、ジョー・ヘンダーソンのテナーサックスがソロで熱を帯びるのに加え、シルバーの左手と右手が生み出す独特のリズムが最高にクセになるアルバムです。
【8】ロニー・スミス / シンク Lonnie Smith Think! / BST 84290
1969年発表。
オルガンの名手、ロニー・スミスのデビュー作。レイ・チャールズの片腕としても活躍したサックス奏者 デヴィッド・ファットヘッド・ニューマンと、BNではすっかりお馴染みのトランぺッター リー・モーガンのフロント2人の参加が何とも嬉しい一枚。1曲目のヒュー・マセケラ作「サン・オブ・アイス・バッグ」は、熱波のようなグルーヴが押し寄せる中で各々のソロが際立つ素晴らしい楽曲。
タイトル曲はアリサ・フランクリンのカバー。
【7】ハンク・モブレー Hank Mobely / S.T. / BLP 1568
1957年発表。
ファンの間では通称1568(イチゴーロクハチ)として知られる、モダンジャズのレコードでは最も高額なことで有名な作品。今となってはCDでも再発盤でも比較的容易に入手できるアルバムですが、81年に日本のキングが国内盤を発売するまで四半世紀近くも廃盤の憂き目にあっていた、オリジナルではプレスされた枚数も少ない大変希少なLP。
ソニー・クラーク(p), ポール・チェンバース(b), アート・テイラー(ds)というリズムセクションも申し分ない、ハンク・モブレーのテナーサックスが光る素晴らしい内容です。
当店ではこちらの商品のラベルの片面の住所記載部分の末尾に「New York 23」と記載があり尚且つ状態良好なものを250,000円で買取致します。
【6】ポール・チェンバース / ベース・オン・トップ Paul Chambers Bass On Top / BLP 1569
1957年発表。
マイルス・デイヴィスのバンドをはじめ、その実力から当時あらゆるレーベルから引っ張りだこで活躍した名ベーシスト、ポール・チェンバースのBNでの3枚目となるリーダー作。それまでの2枚とは異なり、管楽器が抜け、代わりにギタリスト ケニー・バレルが参加したカルテットでの演奏。コール・ポーター作曲の名スタンダード「ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ」でのチェンバースとバレルのソロが秀逸な出来です。
チェンバースの巧みなピチカート(弦を指で弾く奏法)を、あなたも是非このアルバムでお楽しみあれ。
【5】マリーナ・ショウ / フー・イズ・ジス・ビッチ、エニウェイ? Marlena Shaw Who Is This Bitch, Anyway? / BN-LA397-G
20歳ちょっと過ぎの筆者が衝撃にも似た感覚を味わったのはとある中古レコード店でのことでした。R&Bシンガー、ディアンジェロの2000年作『ヴードゥー』をiPodで聴きながら、初めて訪れたお店で棚を物色していた時。所狭しと並ぶ古いジャズの中古レコード盤を横目で見ましたが、誰が有名なアーティストなのかも分かりませんし、数万円するレコードは何故そこまで高価なのかもその時の私には皆目見当もつきません。それまで私が興味を持っていたものより値段もウンと高く、古そうなレコードがその店にはずらりと陳列されていました。
そんな中、『ヴードゥー』に収録の「フィール・ライク・メイキン・ラヴ」がiPodから流れていた時、イヤホンを外しても同じメロディが聴こえるのにふと気付きます。店内をキョロキョロと見回すと、店主がレジ横のプレーヤーで再生しているレコードがその発信源でした。「なんというアーティストのアルバムですか?」と聞くと、店主はそれがマリーナ・ショウの『フー・イズ・ジス・ビッチ、エニウェイ?』だと教えてくれました。
まさにその時、ブルーノートへの入り口が目の前でガチャと音を立てて開き、両手を広げて私を歓迎してくれた、ような気がしました。私とブルーノートの出逢いはこれほど突然だったのです。
1975年発表。
ジョージ・バトラーがプロデュース。67年にカデット(Cadet)でデビュー、レアグルーヴ・ファンから高い人気を誇る2作目『ザ・スパイス・オブ・ライフ』を残したあと、72年にはブルーノートに移籍。本作がBNで4枚目となった作品です。マリーナ・ショウを聴いて欲しい理由は何と言ってもその歌唱力と表現力。ゴスペル音楽で育ったソウルフルな歌声と、やや低めな彼女の声質はいつの時代も聴くものを魅了してやみません。「フィール・ライク・メイキン・ラヴ」はこの前年に録音されたソウルシンガー ロバータ・フラックによる歌唱が有名ですが、こちらもそれに負けず劣らず、デイヴィッド・T・ウォーカーの甘美なギターの音色も艶っぽい、大人の恋の物語が展開される絶品。
日本語に訳すなら「それで、この女は一体何なのよ」というアルバムタイトルもインパクト大です。
【4】デクスター・ゴードン / ゲッティン・アラウンド Dexter Gordon Gettin’ Around / BLP 4204
1966年発表。
ボビー・ハッチャーソンが奏でる透き通るようなヴァイブラフォンの音色がデクスター・ゴードンが吹く野太いテナーサックスにも相性バッチリな作品。バリー・ハリスのピアノも演奏に華を添えます。「黒いオルフェ(Manha De Carnival)」や「エヴリバディズ・サムバディズ・フール」のほか、フランク・フォスター作の大名曲「シャイニー・ストッキングス」など収録。ゆったりとした雰囲気の中にあって、緊張感すら心地良く感じさせるのはこのメンツならではかもしれません。
スローなバラードありご機嫌な曲ありボサノヴァあり、ブルーノートをよく聴いたことがない方にはお勧めです。
【3】ハンク・モブレー / ロール・コール Hank Mobley Roll Call / BLP 4058
1960年発表。
同年に録音した前作『ソウル・ステーション』もワンホーン名盤として名高いですが、本作は同じメンバーにフレディ・ハバード(tp)が加わったクインテット編成での吹き込み。スタンダードのバラード名曲「ザ・モア・アイ・シー・ユー」での優雅さだけでなく、発熱量も凄まじいハードバップ「マイ・グルーヴ・ユア・ムーヴ」でも彼ならではの味わいがたっぷりと楽しめます。ハンク・モブレーは、ジョン・コルトレーンほどカリスマ的な人気を集めるテナーサックス奏者ではありませんが、コアなジャズファンからは根強い支持を得る”信頼が厚い”ミュージシャンです。
そのモブレー自身が全幅の信頼を寄せるメンツとの共演こそが、このアルバムで伸び伸びと演奏している理由なのではないでしょうか。
【2】ハービー・ハンコック / スピーク・ライク・ア・チャイルド Herbie Hancock Speak Like A Child / BST 84279
1968年発表。
デューク・ピアソンがプロデュース、サド・ジョーンズ(flh)、ロン・カーター(b)ほか参加。果たして、これほどまでに美しくロマンチックなジャケットが他にあるでしょうか?写真でキスをする影はハービー・ハンコック夫妻だそうで、タイトルを日本語に訳すなら”子供のようにお喋りしよう”。マイルス・デイヴィスのアルバムにも収められた2曲「ライオット」と「ザ・ソーサラー」は多感な幼少期を表現したようなドラマチックな曲、そして同作品の顔ともいえるタイトル曲「スピーク・ライク・ア・チャイルド」は子供時代を思い出した感傷的な大人の心理を譜面に書き起こしたような繊細な印象の楽曲。
ハンコックの詩的な世界観が作品の初めから終わりまでぎっしりと広がっており、まるでおもちゃ箱を開けたかのような、夜眠る前に親に絵本を読み聞かせてもらっているような、そんな優しい心持ちにさせてくれる一枚です。
【1】ホレス・シルバー / ザ・トーキョー・ブルース Horace Silver The Tokyo Blues / BLP 4110
1962年発表。
同年正月に初来日を果たしたホレス・シルバー。本国アメリカよりも遥かに大きな歓声とともに迎えられたその感動と日本の印象を、ラテンのリズムと共に表現したのがこの作品。ピアノトリオ編成によるバラード曲「チェリー・ブロッサム」以外はすべてシルバーのペンによるもの。タイトル曲「ザ・トーキョー・ブルース」の他、「トゥー・マッチ・サケ」、「アー!ソー(あぁ、そう)」という日本に因んだ名前の曲が並びます。特に「サヨナラ・ブルース」は、彼らしいファンキーなノリの中にブルースの苦さが程よく舌に残って痺れる名演です。ジャケット写真は当時ニューヨークにあった日本庭園で撮影されたもので、シルバーの左側(写真手前)の和服美人は米国留学中の映像作家 出光真子さんとのこと。
ジャズが好きな日本人には是非とも一度は聴いもらいたい素晴らしいアルバムです。
番外編:アート・ブレイキー / ホリデイ・フォー・スキンズ Vol.1&2 Art Blakey Holiday For Skins / BLP 4004, BLP 4005
1959年発表。
BNの看板ドラマー アート・ブレイキーによって、モダンジャズとアフロキューバンジャズが融合した異色作『オージー・イン・リズム Vol.1&2』が57年にリリースされました。
本作はその続編ともいえる同じコンセプトで作られたアルバムで、Vol.1とVol.2のLP2枚に分けられて発売されました。サブー・マルティネスやレイ・バレットら第一級のパーカッショニストを迎えた一方、ドナルド・バード(tp)、レイ・ブライアント(p)、ウェンデル・マーシャル(b)に加え、フィリー・ジョー・ジョーンズとアート・テイラーとブレイキーという3人の実力派ドラマーが一度に相まみえる壮大な展開が繰り広げられます。ブレイキーらの掛け声(チャント)の後、パーカッションが騒がしく鳴り響く。そうかと思えば彼の真骨頂ともいえる迫力満点のドラムソロが空間を支配します。
あなたもこのアルバムを聴けば、ジャケット写真にあるようにブレイキーがその掌から魔法を放っているかのような錯覚を覚えるでしょう。他の優美なモダンジャズの世界とは全く違う、新しい”ジャズの在り方”をブレイキー自らが体現するかのような、他のレーベルにはないBNならではの一風変わった試みが楽しめる作品です。
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「筆者が選ぶブルーノートトップ10」と題してご紹介しましたがいかがでしたか?
ブルーノートには素晴らしい内容のレコード作品が沢山あります。貴重なレコードは決して簡単には処分せず、その高い価値を十分に分かっている中古レコード買取専門店への売却をお勧めします。高額買取が可能な作品もとても多いブルーノートのレコード。当店に在籍するジャズのレコードに詳しいスタッフが査定を担当致します。
買取に関するご不明な点、ご依頼は受付までお気軽にお問い合わせくださいませ。
筆者: 福田俊一(ふくだ・しゅんいち)
FTF株式会社 制作部/販売部兼務。買取部門のコラムやnoteのほか、販売部門の特集コラムを執筆。大学卒業後にレコード収集に興味を持ち、約15年かけてジャズレーベル、ブルーノートの(ほぼ)すべてのLPをオリジナルで揃えた。
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