エコストアレコードでは近年ジャズのレコード作品ももちろん買取しています。
ジャズは昔も今も人気が高い音楽ジャンル。ディキシーランドやモダンジャズ、70年代以降のフュージョンなど、その長い年月の中でジャズは少しずつ進化しています。
21世紀に入ってからもジャズの進化は止まる気配はありません。当然、古き良きスタイルのジャズもしっかりと継承されていますが、中には他の音楽ジャンルの要素を吸収しているものも。
近年人気ジャズ作品にはどんなものがあるかエコストアレコードが解説してみましょう。
文:福田俊一(Ecostore Records)
知っておきたい近年ジャズの盛り上がり
ジャズというと、あなたはどんな印象を持っていますか?親しみやすい音楽、それとも敷居の高い音楽でしょうか。
ジャズは19世紀末から20世紀初頭にアメリカ南部にある街、ニューオリンズで誕生したという説が有力。様々な文化や音楽性を持った人種が集まったうえ、当時奴隷制があり社会的に抑圧されたアフリカ系アメリカ人が表現した音楽がジャズになったとされています。ジャズの根底にはブルースがあるのがまさにその証拠でしょう。
産声を上げてからおよそ100年。ジャズという音楽も変化しています。
そんな中、近年のジャズには、ヒップホップやR&Bといったクラブミュージックの影響を色濃く感じさせる作品も。
黄金時代、全盛期といわれる1990年代のヒップホップにはジャズをサンプリングした楽曲が無数にあり、音楽だけでなくヒップホップ文化自体にも影響を与えたのは言うまでもありません。
近年のジャズ作品にはそれと真逆の現象が起きている、つまり、ヒップホップの影響を受けたジャズが作られるようになった、ということです。
ジャズに限らず、音楽というのは時代とともにこうして変化・進化してゆくものなのでしょう。
近年ジャズ作品にはどんなものがある?
ジャズは誕生してからずっと前進しています。ルーツとなる音楽性は変わりませんが、ジャンルとしての方向性が面白いように枝分かれしてゆき、結果的に幅が広がって多くのファンを夢中にしているのです。
あの日、あなたがレコード店で、もしくはインターネットで購入した発売されたばかりのそのジャズのレコード。もしかすると、もう既に中古レコード買取で高額商品になっているかも。
ジャズ好きなら知っている、近年人気レコード作品をいくつか例として挙げてご紹介します。
Norah Jones / Live From Austin, TX(New West Records, 型番:NW5017)
2008年発表。
「Don’t Know Why」を収録し大人気を博した2002年発表の彼女のデビュー作『Come Away With Me』。そして2004年の2作目『Feels Like Home』、2006年の3作目『Not Too Late』という3作品からの楽曲をパフォーマンスしたテキサス州オースティンでのライブ盤。
内容の良さだけでなく、LPレコードが180グラム重量盤2枚組仕様になっており高音質でも人気な作品です。
Stacey Kent / The Changing Lights(Pure Pleasure, 型番:PPAN 17529)
2013年発表作品、14年には180g重量盤2枚組仕様でLPが発売。
ステイシー・ケントは英国を活動の拠点にする米国ニュージャージー出身の女性ジャズシンガー。
本作は彼女の夫でもあるジム・トムリンソンのプロデュースのもと、自身のオリジナル楽曲の他、ブラジル音楽の名曲を穏やかでありながらも情熱的にカバー。収録曲「The Summer We Crossed Europe In The Rain」と「Waiter, Oh Waiter」は17年にノーベル文学賞を受賞した日系英国人小説家カズオ・イシグロ氏による作詞の素晴らしい曲。
21世紀版 正統派ジャズボーカルといったイメージですが、ポップス的な印象も感じさせてくれます。
Jose James / Yesterday I Had The Blues(Blue Note, 型番:00600406593887)
ホセ・ジェイムズは1978年米国ミネソタ州生まれのジャズシンガーで、影響を受けたのはビリー・ホリデイだそう。
彼は2000年にNYへ活動の場を移し、著名な英国人DJ ジャイルス・ピーターソンが興した独立レーベル、ブラウンズウッド・レコーディングズとサイン。同レーベルから発表した『The Dreamer』と『Blackmagic』の2作品は評価が高く、当時ジャズとクラブミュージックの双方で大きな話題となりました。
2012年にはブルーノートへ移籍。同年にベルギーで行ったビリー・ホリデイをトリビュートしたライブがきっかけとなり、その3年後にリリースされたのが本作。
ホリデイの代表曲「Strange Fruit(邦題:奇妙な果実)」や「Good Morning Heartache」、「Body And Soul」など彼女がかつて愛唱したナンバーが並びます。
Kamasi Washington / The Epic(Brainfeeder, 型番:BF050)
2015年発表。180g重量盤LP3枚組、ボックスセット仕様。
カマシ・ワシントンは1981年米国ロサンゼルス生まれのテナーサックス奏者。
彼が共演したミュージシャンはウェイン・ショーター、ハービー・ハンコックといったモダンジャズのレジェンドのほか、ローリン・ヒルやナズ、スヌープ・ドッグ、フライング・ロータスといった実に多彩な顔ぶれ。ワシントン自身も次世代のジャズシーンで重要な存在を担うこと間違いありません。
LPレコード3枚組、収録時間も170分超というから迫力も満点です。
Miles Davis & Robert Glasper / Everything’s Beautiful(Columbia, 88875157821)
2016年発表。Red-Wax LP仕様。
ロバート・グラスパーは05年に名門ブルーノートからデビューした米国人ジャズピアニスト。12年には『ブラック・レディオ』がグラミー賞で最優秀R&Bアルバム賞を受賞。
彼の音楽の特徴は、ジャズをベースにしつつもヒップホップやR&Bなど、ジャンルの垣根を越えて自分自身を上手く表現していること。60年代からモダンジャズの第一線で活躍しているハービー・ハンコックの楽曲をカバーしたと思えば、ラッパーであるコモンやQティップ、マック・ミラーといったラッパーのアルバムにも客演する、いかにも今の世代のジャズマンといった器用なミュージシャンです。
本作では同レーベルの大先輩でありジャズの偉人であるマイルス・デイヴィスの楽曲を基にグラスパーが尊敬の念を込めて再構築した異色作。マイルスのバンドに所属したジョン・スコフィールド、往年の名ソウルシンガー スティービー・ワンダーの他にも、ハイエイタス・カイヨーテやエリカ・バドゥといった今の音楽シーンの最前線を走る豪華ミュージシャンが参加。
収録曲「Violets」では大傑作『Kind Of Blue』からビル・エヴァンスのピアノのフレーズを大胆にもサンプリング。マイルスを代表する名曲の一つ、「Milestones」はジョージア・アン・マルドロウを迎えオリジナルとは違った風味に仕上げられています。
Gregory Porter / Nat “King” Cole & Me(Blue Note, 型番:5791499)
2017年発表。LP2枚組仕様。
グレゴリー・ポーターは1971年生まれ、カリフォルニア州出身のジャズヴォーカリスト。2010年にMotema Musicからリリースした『Water』でデビュー。同レーベルにもう1作残した後、2013年にはブルーノートへと移籍。
2013年に新天地BNで録音した『Liquid Spirit』は翌年のグラミー賞でベスト・ジャズ・ボーカル・アルバムを受賞。人気ミュージシャンの仲間入りを果たし、若いジャズファンの心を掴んで離しません。
本作はポーターにとって5枚目となる作品。この作品では、彼の幼少期と自身の歌手人生に大きな影響を与えたナット・キング・コールの楽曲をカバー。「L-O-V-E」や「Smile」など、ジャズボーカル史に残る伝説的シンガーの名曲をその独特の低い声でソウルフルに歌っています。
近年ジャズのレコードにも高価買取されるものがあるかも
近年のジャズレコード作品の特徴の一つに、製造枚数の少なさが挙げられます。1970年~80年代に発売されたLPは、当時はレコードで音楽を楽しむことがまだ主流だったため枚数も今と比較にならないほど多く製造されていました。
しかし、80年代になると音楽の主流となるメディアがCDへと移り変わったことでレコードの生産数は激減。
以降、長くCDが主流でしたが、世間はいつしかストリーミングで音楽を楽しむ時代に。
元々レコードの生産数が少ないことには変わりなく、2000年以降にリリースされたジャズ作品は再発されることもあまりないため廃盤になりやすい傾向にあります。レコードというのは廃盤になると入手困難になるため価格相場が上がってゆきます。
こちらでご紹介した近年ジャズのレコード以外にも知らない間に価格が上がってきている作品があります。発売当時こそ2,000円台で新品で購入したものでも、レコードの買取ではアッと驚く金額になることもあるかもしれません。
レコード自体の人気が再燃している今こそ、もう聴かないその一枚を当店で査定してみてはいかがでしょうか?
筆者: 福田俊一(ふくだ・しゅんいち)
FTF株式会社 制作部/販売部兼務。買取部門のコラムやnoteのほか、販売部門の特集コラムを執筆。大学卒業後にレコード収集に興味を持ち、約15年かけてジャズレーベル、ブルーノートの(ほぼ)すべてのLPをオリジナルで揃えた。